『ウェブログ・ハンドブック』訳者あとがきを 2024 年に読む
なぜ今頃になってと思われるだろうが、今月、『ウェブログ・ハンドブック』が刊行されて20年になるんですね。ワタシは3冊本を訳しているが、『ウェブログ・ハンドブック』の「訳者あとがき」は、16ページ(!)にも及ぶ、例外的に長い文章だったので、20周年記念ということで今更だが公開させてもらう。まぁ、自己満足ですね。
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本書について
本書は、Rebecca Bloodによる『The Weblog Handbook: Practical Advice on Creating and Maintaining Your Blog』(2002, Perseus Publishing)の全訳である。日本語版の刊行にあたり、原著者による日本語版への序文が追加されている。本書の翻訳については、冒頭の『われわれが思考するごとく』からの引用を除いては、既訳は特に参考にしていない。
原著は 2002 年に出ているので 22 年前のこと。
著者は、本書においてウェブログをブログ、ノートブック、フィルタという3つのカテゴリに分類している。元々ウェブログとは、ウェブで見つけた面白いウェブページをリンクし、それにコメントを付けて紹介するフィルタ型のサイトを指し、ウェブ日記(journal)などは含まなかった。しかし、Blogger登場後には短い文章からなるウェブ日記型のブログと、ブログよりは長めの文章からなるノートブックという、必ずしもリンク志向でない形式を含むまでウェブログ(コミュニティ)は拡大していく。
あらためてウェブログについてじっくり考えるきっかけを与えてくれる文章だなあ。おもしろい。 言葉が指す範囲は拡大したが、それでもウェブログをウェブログ足らしめるフォーマットは確実に存在する。それは頻繁に追加更新される最新のエントリがページの最上位に表示され、過去のエントリが記事単位で参照可能なようにアーカイブ化されるという「ウェブというメディアに最適化されたpublish形態」である。外部へのリンクをどの程度多用するか、サイト運営形態といったもののポリシーは、それぞれのウェブログで異なる。
この「過去のエントリが記事単位で参照可能なようにアーカイブ化される」って性質を 2024 年に読むと、当時を知らなければ「どういうこと?」という気持ちになるかもしれない。今ではそうなっていないものを探す方がむつかしいくらいで、逆にいえば、当時の個人ウェブサイトではそうなっていないものが多かったのだ。今では誰しもがスマートフォンで当たり前のように「シェア」をやるわけで、そのためのパーマリンクがカジュアルに存在している。 例えば、1999年には「ハイパーダイアリー」という言葉が提唱されている。この言葉は現在では全く使われないが、それはその理念が廃れてしまったということではない。むしろ、そこで述べられていた、他サイトへの言及を通したウェブコミュニティの形成が、ハイパーダイアリーという言葉に依存しなくても、ごく普通に行われるようになったからとも言える。
技術的な面でも、前述のランキングポータルサイトにおける技術的な蓄積は、サイトの更新を集約する更新情報取得アンテナの開発につながり、その流れは最近のはてなアンテナまで続いている。また、Permalinkという言葉ができる遥か前に、ウェブ日記初期から存在するhauNコミュニティにおいて、個別の段落へのリンクによる他サイトへの言及を可能にする「段落アンカー」が発明されており、ハイパー日記システムやtDiaryに至るまで、高機能なウェブ日記ツール(サービス)に実装されてきた。さらに、これらのツールには、カテゴリ別の表示を可能にするトピック分類機能、双方向のコミュニケーションを促進するコメント機能も含まれている。
ここにも登場する tDiary は今でも開発が続けられているのだから、まじで尊敬の対象だよ。すごい Bloggerと9.11テロ
そして、アメリカにあり日本になかったものとして9.11テロを挙げるのは、いささか不謹慎に思われるかもしれないが、この事件後、ウェブログの認知度が一気に高まったのは間違いない。この事件がウェブログコミュニティにもたらした質的変化については、やはり本書のあとがきを参照いただきたいが、氾濫する情報から有効なリソースを選別するフィルタサイトの復権を実現しただけでなく、既存のメディアに乗らない個人の生の声を伝えたい、読みたいという欲求にウェブログが応えたのは間違いない。
一方で、著者が本書のあとがきで表明していた、政治問題、時事問題に興味のあるウェブロガーが、9.11テロ後、自分達の主張に合致するウェブログしかリンクしたり読んだりせず、ますます自分達のグループ内で閉じこもっているように見えるという懸念は、先の米英によるイラク侵攻前後のウェブログコミュニティにおいても現実化していることを著者は語っている。
ウェブログツールを使って作れば自動的にウェブログになるという考えを著者は強く戒めているが、一方で、これからウェブログを作る読者に対して、(著者自身は現在もHTMLを手書きしているにも関わらず)迷わずウェブログツールやサービスの利用を勧めている。インターネットはもはや我々の生活インフラになっているが、それでも個人ウェブサイトを作る層に偏りがあったのは間違いない。これまでウェブに出てこなかったような声がウェブログを契機としてどんどん表に出るようになり、既存のウェブユーザでも、現在利用しているサービスに満足できなかった人達が、自分に合った適切なスタイルを見つけてサイトをビルドアップしたり、コンテンツの質を上げるのに注力できるようになれば、それは素晴らしいことである。著者が語るように、どのウェブログにもカバーされていない分野がまだまだ残っている。
個人ウェブサイトをつくるのはむつかしかった人でもウェブログツールで発信できるようになり、ウェブログツールを使うのはむつかしかった人でもスマートフォンとソーシャルメディアで発信できるようになった。このこと自体は、やはり素晴らしいことであっただろう。 ウェブログは特定のツール、サービスに依存するものではないし、逆に、サイト管理にウェブログツールを用いながらも、自身のサイトをウェブログとはみなさない人もいる。そういういささか捩れた現状に対する著者の主張は明快である。つまり、ウェブログは参加型のメディアである。ウェブログという形式自体が新しかったのではなく、新しかったのはコミュニティである。ウェブログの最も重要な役割は、コミュニティを形成することであり、情報発信を行う個人からなる民主的なコミュニティこそがウェブログムーブメントなのである。
わしはこの 2024 年によ、情報発信を行う個人からなる民主的なコミュニティをつくりたい、そこに参加したいと思っておるよ。ウェブログ・ムーブメント・ルネサンス。かつて夢見た場所をまだあきらめていない。